昨年、一昨年まで京都大学野球部に所属し、エースとして第一線で他大学と渡り合ってきた弊紙記者らが、勝利試合のターニングポイントと睨んだ場面について、選手や監督に深く掘り下げた質問をぶつける企画。

勝利を手繰り寄せた至極のワンプレーの裏にはどのような意図や思惑、指示、判断、があったのか――

第二回 令和四年春季リーグ戦第一節 対関西大学三回戦 

八回裏一死一,二塁 

二塁走者 出口(栄光学園④) 打者 愛澤(宇都宮④)

【状況】

関西大学から40年ぶりの勝ち点をかけた三回戦。二回裏に先制、四回裏に追加点を取り、3-0で前半五回を折り返す。六回からエース水江(洛星③)が登板し逃げ切りを図るも、七回表と八回表に一点ずつ返され、徐々に差を詰められる苦しい展開に。しかし八回の裏、片岡(神戸④)と出口(栄光学園④)の連続安打で無死一,二塁と好機を作る。どうしても追加点が欲しい展開で、打者は梶川(旭丘④)。送りバントを試みるも、相手守備の強いプレスに阻まれてしまい二塁走者が封殺。一死一,二塁に変わり反撃ムードに陰りが見えた。

ここで打者は今日三安打の愛澤(宇都宮④)。次打者が投手の水江なだけに、ここは無理な作戦はしかけずに正攻法で攻めるものだと筆者らは思っていた。

しかし、1ボールで迎えた二球目。二塁走者の出口が三盗を仕掛ける。この奇襲が成功し、盤面は一死一,三塁の大チャンスへ急展開した。バント失敗で傾きかけた流れを一気に引き戻すビッグプレーだった。

そして1ボール2ストライクからの4球目を打った愛澤の打球はゴロとなりファーストへ。ここでも三塁走者の出口が積極果敢にホームを狙い、相手二塁手の懸命の早急も間一髪セーフ。待望の追加点を勝ち取った。

試合を決定づけたこの追加点を生み出した三盗と本塁を狙った走塁の真意を、近田監督と出口、愛澤に伺った。

勝負の分かれ目になった三盗について

・無死一二塁となった場面で田村から梶川に代打を出した意図とは?

-近田監督

打席前にはバントの場面なら田村(洛星③)、チャンスの場面なら梶川と2人には伝えていましたが、出口が出た時にも梶川が準備を辞めていなかったので1番大事な場面だからこそ梶川に任せよう!と思って起用しました。

勝負所で代打梶川の選択肢を取った近田監督

代打梶川は送りバントを試みるも二塁走者片岡が封殺され失敗。

バントが失敗し一死一二塁となった打者愛澤での作戦はどのように考えていたか

-近田監督

バントが失敗した時は想定内でした。そこまで上手く運べるばかりではないと思ってはいたので。なので次の場面でどのように流れを渡さずに攻めるかを考えていました。

・バントが失敗した次の打席だった。あそこでの状況判断と三盗の意図を教えてください

-出口

次の打順が8番愛澤、9番水江(投手)だったので、もし無得点のまま水江まで回れば点は入らないだろうと思っていたので、勝負をかけるならこの打席だろうと。

・決断のタイミングはいつだったのか(盗塁は二球目)

-出口

初球から行こうと決めていました。

・まさにここ一番のプレーだったと思うが、盗塁が成功した際の心境は

-近田監督

そもそも出口の三盗はノーサインだったんです。心境は良くやった!しかなかったですね。1アウトのままでランナー三塁の状況をどう作るか考えていたので。

-出口

僕はとても冷静でした。積極的に攻めた結果だったので、成功してよかったです。

試合のターニングポイントとなった三盗を成功させた出口だが、意外にも心中は冷静だったという
(写真:京都大学硬式野球部提供)

そして盤面は変わり一死一,三塁

次打者愛澤の一ゴロについて

この上ないチャンスにこの日これまで三安打と好調の愛澤

・監督から打者愛澤への指示は?

-近田 

愛澤は調子が良かったので、2ストライクまでは特に大きな指示はなかったです。

・三塁走者としての心境は?

-出口 

愛澤がその日調子がとてもよかったので、最初から若干スイングゴーの気持ちでいました。

・ゴロゴーのサイン等はあったのか

-愛澤 

追い込まれてからコンタクトゴーのサインが出ました。

2ストライク1ボールと追い込まれてからの4球目。愛澤はファーストに強いゴロを打つ。

・セーフと判断されたときの心境

-出口 

むちゃくちゃ嬉しかったです!

-愛澤

追い込まれていて、出口の足なら転がせば必ず生還してくれると思ってました。

ホームインした出口(写真中央左)と歓喜するベンチ

・オフシーズンに走塁を重点的に鍛えてきた。三試合で勝利を引き寄せる三盗を含む10盗塁。これが意味するものとこれからの抱負を教えてください。

-出口

とてもいい感じできていると思います。今回の場面の攻撃はどれも積極的な判断の結果なので、積極性はこれからも継続したいです。

-近田監督

先程のコンタクトゴーもですが、オフシーズンに守備と走塁は徹底的に鍛えてきました。今年のチームのカラーですし、僕の監督としての攻め続けるっていう姿勢の象徴でもあると思います。

次節以降も、自分達は強いと勘違いすることなくチャレンジャーとして毎試合全力で戦いたいと思います。

勝ち点をつかみ取った勝利を引き寄せる至極のワンプレーには、今年の京大のチームカラーと、常に攻め続けるという姿勢がひしひしと感じられた。

開幕節で勝ち点を獲得した京大。自慢の機動力を武器に今後も期待がかかる。

勝負眼②

八回裏一死一,二塁 二塁走者 出口(栄光学園④) 打者 愛澤(宇都宮④)

原健登

「京大ベースボール」記者。京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士2回生。2020年まで京都大学硬式野球部に所属。野球部時代は主に投手を務めた。脇編集長の熱意に惹かれて何か手伝えることはないかと思い当紙に入局。現役時の夢は、「京大野球部が他大学に単純に実力差で勝てるチームになること」。自分が選手時代に達成できなかった目標が徐々に実現しつつありとても嬉しいです。頑張って記事書きます。

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